コーヒーの事を少し。

お店ををはじめたら「ショコラ」と「フリュイ」という名前のブレンドを作ろう。

そんな事をずっと想像していた。苦めの「ショコラ」とフルーティーな「フリュイ」の2種類のブレンドだけ。シンプルで綺麗なパッケージで、文字もシュッとした感じで。いかにも今っぽいく。

今でもそのイメージはずっと持っているけど、お店をはじめてみたら、お客さんの好みの8割は「酸味の少ないやつ」だ。たぶんこの割合はうちの店だけじゃなくて日本全国に当てはまると思う。

日本人の8割は酸味の少ないコーヒーを求めている。コーヒー業界に住む人間からすると少し寂しさを覚える。なぜなら、美味しいコーヒーの酸味をもっと知ってもらいたいから。

ひと昔前の品質の悪いコーヒー豆と違って、今のコーヒー豆の多くは新鮮で、管理もしっかりとされている。古くなったコーヒー豆の酸はえぐみがって、顔をしかめたくなる何とも言えない味がするが、

新鮮な豆の酸はとてもフルーティーで、華やかで、香りもよく、全く違う感覚を覚える。一度体験すると逆に酸味の無いコーヒーが物足りたいとさえ感じる。しかし、である。

 

コーヒーはあくまで嗜好品であって、その好みは千差万別でいい。こちら側の基準でコーヒーを語るのは違うと思う。コーヒーの味はお客さんが選ぶべきで「美味しいの押し売り」はしない。

これでもか、というくらい今のコーヒー屋さんのコーヒーは酸っぱい。美味しいコーヒーとは、こういうものなんだと押し付けられている気がする。何も知らず、それを美味しいと言っていた

昭和の喫茶店の苦すぎるコーヒーと同じことを今、令和のこの時代に今度は逆に酸っぱいコーヒーでしているように思う。

 

酸っぱいコーヒーの良さはもちろん理解しているし、苦いコーヒーの良さを否定しているわけではない。僕が思うのは、コーヒーはもっと幅広いんだという事。

飲む人が美味しいか美味しくないかを正しく判断できるように、僕に出来る事3つしかない。「新鮮な生豆を用意する事」「正しい焙煎を施す事」「焙煎から時間をかけずに売り切る事」

それを飲んでもらって、お客さんが判断してくれたらいい。お店には浅煎り~深煎りまで(酸っぱいコーヒーから苦いコーヒーまで)取り揃えていて、お客さんの好みに合わせてご提案している。

どれだけおすすめの浅煎りの豆があっても酸味が苦手ならそれは勧めないし、否定しない。色んな焙煎度合いがあるからこそ出来る事だと思う。そして、パン屋さんがその日に焼いたパンを店頭で

販売するように、その日のうちに売り切れる分だけを焙煎する(もちろん全てではないし、焙煎したてがベストという訳でもない)ように心がける。すべての条件をそろえたうえでお客さんの好みに

委ねる。

 

美味しいコーヒーとは?

こちら側の人間ならその答えは知っている。でもそれが全てのお客さんの口に合うかどうかは別問題。美味しいコーヒーとは、自分が一番おいしいと思ったコーヒーなんだという事だ。