コーヒーの品質は品種だけで決まるものではなく、品種と環境とのマッチングや農地管理、精製精度などにも大きく影響を受けます。私達が取り扱ってきた産地、
特に北スマトラ州とアチェ州というマンデリンの産地においては、その影響が如実に表れると言われ、マンデリン独特の芳醇で優雅な香りは在来種のそれを表現したものでした。
ですが近年はハイブリット種(交配種)に植え替えが進んでいます。理由は大手コーヒーチェーンの買い占めによるものと言われています。彼らが生産者に求めるものは「そこそこの物を安定して供給してほしい」と
いうものです。生産者からすると生産管理のしやすい品種を大量に買い取ってくれる大手はとても魅力的に映るでしょう。そうしたバイヤーが増えた事で、素晴らしい香味をもつ在来種のコーヒーの木が
どんどんと植え替えられてしまい、現状そのほとんどが消滅してしまったとまで言われています。つまりは、今まで私達が目指していた最高品質の基準を満たすようなコーヒーが、インドネシア
の産地から消えてしまったという事です。もっというと、市場に出回る『マンデリン』という名のコーヒーは全て、ハイブリット品種で過去の素晴らしい香味を知っている人にすると「なんだこれは?」
と思うようなコーヒーが市場にあふれる事になるという事になります。大げさではなく、現実です。
インドネシアの現状がこんな風になっているとは、私も正直なところ知りませんでした。仕入れ先が言う情報も「そうは言っても」と、高をくくっていた所がありました。
お客様にコーヒーの現状を知っていただく事も私達の仕事なのにも関わず、勉強不足を猛省しているところです。
コーヒーが値上がりしている事はご存じの通りです。温暖化による減産、消費国の消費過多、円安による影響、コロナ後のコンテナ不足など、コーヒーをとりまく現状は更に厳しさをましており、
今後値段が落ち着く要素は見当たりません。そうなると、今まで品質を求めていた大手が価格を抑えるために品質を落としたコーヒーに舵を取りはじめ、生産者のモチベーションが下がり、高品質の
スペシャルティコーヒーがより減産してしまいます。まさにインドネシアで起きている事が他の国でも起き始め、「スペシャルティコーヒー」のレベルが今まで通りにはいかなくなると思います。
今まで通りの品質を求めようとすると、それはそれは高値での取引が求められるでしょう。それはつまり、コーヒー豆の価格に反映され、皆さんが買うコーヒー豆の価格に影響を及ぼします。
そこそこの豆でいいのか、最高品質を求めるのか。
これは、コーヒーを扱う私達の判断にゆだねられるわけですが、その需要はいかほどなのか。どこまでなら「コーヒー」の価格としてゆるされるのか。非常に難しい局面を迎えようとしています。